9月8日(土)に早稲田大学で開催された「XP祭り2018」に参加した。Regional Scrum Gathering TokyoもAgile Japanも参加できなかったので、自分にとってはアジャイル関係で初めての大規模カンファレンスへの参加となった。
また、前日には同じ会場で「前夜祭」として「第2回enPiT-Proスマートエスイーセミナー: アジャイル品質保証と組織変革」も開催された。こちらにも参加した。
イベントの内容について細かく書くことはせず、面白かったことや印象に残ったことをいくつか書いておきたい。参加したセッション、ワークショップすべてに言及するわけではないということ、そしてそれは言及のないものに対する低評価を意味しないということを断っておく。
前夜祭:スマートエスイーセミナー
「アジャイル品質保証と組織変革」というテーマに惹かれて参加した。「アジャイル」や「組織変革」が身近なキーワードであるのに対し、「品質保証」はどこかよそよそしい言葉である*1。これらが結び付くときにどういったことが語られるのかに興味があった。
品質保証とアジャイル
品質保証とアジャイルと組織変革というと、思い出す『エクストリームプログラミング』の一節がある。
品質部門を別に設置すれば、エンジニアリングにおける品質の重要性が、マーケティングや営業における品質と同等だというメッセージを送ることになる。エンジニアリングで品質に責任を持つ人がいなくなる。すべては他の誰かの責任だ。開発組織のなかにQA部門を設置したとしても、エンジニアリングと品質保証が別々の並行した活動であるというメッセージを送ることになる。品質とエンジニアリングを組織的に分離すれば、品質部門の仕事は建設的なものではなく、懲罰的なものとなってしまう。
ー『エクストリームプログラミング』128ページ
セミナーでは「品質部門を別に設けるな」ということが言われることはなかったが、上記のものと近い問題意識に基づく話が多くあったように感じた。永田さんが懇親会で仰っていた「QAは品質についての情報を開発チームに提供することで貢献する」というのもそうだし、Yoderさんの紹介していたパターンにも「障壁の解体」や「アジャイルプロセスへの品質の組み入れ」などといった話が出ていた。
Linda Rising さん
『Fearless Change」の著者であり、近頃よくそのモノマネを聴く機会があるLinda Rising さん。この日も、永田さんのお話の中に登場してきた。Agile Japan 2011の基調講演で来日された際に、永田さんが「QAとしてどう開発者チームに関わればよいか」と相談したところ、"Stealth"というキーワードをくれたと。開発者にとって見えにくい、邪魔にならない存在となり、まずは静かに観察することが大事だという話だったと記憶している。更に、2000年に出版された書籍のなかで既に「QAを早くから巻き込め」という趣旨のことを述べていたそうで、その先進性に永田さんは唸っていた。
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XP祭り2018
t-wadaさんの基調講演
『テスト駆動開発』の「付録C」は一度読んでいて、しかも2017年12月にt-wadaさんのお話を聴いたのは僕にとってはとても印象深い思い出となっているので、基調講演の内容はある程度は既知だった。しかしそれでも新たに得たものは確かにあった。
一つは、歴史について。今回の歴史についての語りは書籍よりも幅広く、wikiやパターンにも言及する、TDDの歴史に止まらないものであり、半ば「うっとり」しながら聴いた。学生時代に聴いた「国法学」の講義を思い出させるような、t-wadaさんの広い知識と語りの上手さが存分に発揮された上質なものだった。
もう一つ印象に残ったのは、DHHの「TDDは死んだ。テスティングよ栄えよ」によって批判されたTDDの教条主義化に関連して、t-wadaさんが自らの責任に言及したことであり、そのときのt-wadaさんの表情、声のトーンだ。別の文脈で「Uncle Bobは過激なことを言って世の中を前に進めるタイプのプロレスラー」という発言をされていたが、t-wadaさん自身がこの種の存在になることについて苦悩しているような印象をもった。
「ポジティブふりかえりマッピング」
川口さんが急遽代打で開催されたワークショップ「ポジティブふりかえりマッピング」に参加した。ふりかえりをするときのフレーミングとして、プロジェクトについて他の人に「どうだった?」と聴かれたときに"It was great because..."と答えるとしたら、というものを紹介していただいたのだが、この英語の部分を川口さんがLinda Rising 風で2回実演してくださった。文化の違いの話を添えて、単なる笑いどころで終わらせないのがさすが。
また、アジャイル宣言がどのようにして生まれたのかという話を聴くことができた。集まった17人がインデックスカードに大事だと思う価値をそれぞれ書き出していったという話だ。t-wadaさんが好んでされる「Kent Beck と Eric Gamma が機内でペアプロしてJUnitができた話」と似たような面白さがある。
2日間を終えて
セミナーは、普段参加している勉強会とはかなり雰囲気が違っていたが、QAというあまり縁が深くない文脈の話を聴くことができてよかった。自社の開発における品質についても、人的な面と技術的な面の両方でもっと取り組めるものがあると感じた。
XP祭りは、普段参加しているイベントよりも更に一段上の熱気があり、登壇者も参加者も心から楽しんでいる場だというのが伝わってきた。ああいう場を作ることができるのは「コミュニティ」の素晴らしさなのだと思う。
そして、忘れてはならないのはスタッフの方々の献身だ。日頃から無料の勉強会にたくさん参加させてもらっている身であるから、何がしかの形でこれから自分も貢献していかねばとの思いを強くしたXP祭りだった。
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*1:品質は、ソフトウェア開発者として、当然、自らの責任の範囲内のものだという意識を持っているが、「品質保証」は「開発者とは別の誰かの仕事」につけられた名前だという印象がある。