こまぶろ

技術のこととか仕事のこととか。

『なぜ、わかっていても実行できないのか』を読んだ

ジェフリー・フェファーとロバート・I・サットンの『なぜ、わかっていても実行できないのか』を読んだ。これも以前のメモの微修正だけど、メモを読み返しているともう一回読んでもいいかなと思った。

なぜ、わかっていても実行できないのか 知識を行動に変えるマネジメント

なぜ、わかっていても実行できないのか 知識を行動に変えるマネジメント

 

 

原題は"The Knowing-Doing Gap"ということで、知識が行動に結びつかないということに対してメスを入れている本。原因としては、

  1. 問題を話し合っただけで仕事をした気になる
  2. 過去のやり方にこだわりつづける
  3. 部下を動かすために恐怖をあおる
  4. 重要でないことばかり評価している
  5. 業績を上げるために競争させる

の5つに分けて議論されている。

 

発言の多さとリーダーシップ

発言の多い人ほど影響力が強く、ステータスが高く、リーダーにふさわしいと思われている。男性マネジャー諸氏を押しのけて部長に抜擢された女性に、その理由をたずねたことがある。冗談めかして彼女はいった。「私がおしゃべりで、ほかの人にしゃべらせないからでしょう」。はからずも、この言葉はグループ・ダイナミクスの原理を表している。発言が多いことと、相手の発言をさえぎることが、グループの人間関係に大きく影響する。(55)

自分が多弁な方なので、非常に納得がいく。見る目のある人は発言の量で評価したりはしないだろうけれど、ぱっと見て発言が多い人は「バリュー出してる」ように見えがちだろう。リーダーシップとは別の文脈だが、会話が多い会が必ずしも盛り上がっている訳ではないというのも思う。

 

経験と行動

むやみに経験に頼る体質では、知識を行動に移せない。なんらかの変化を起こすのは不可能だ。記憶を頼りに、何も考えずに行動するからである。それが意味のある行動かどうか、疑問ももたない。たとえ疑問を感じても、反対の声を上げたり、別のやり方を提案したりする勇気はない。(78)

古いやり方に固執する組織というのはよく聞くが、ここで言われていることはそれとはまた別の、しかし納得のいくことだ。思いつきでしか新しい行動が生まれない組織というのはよくある。それが経験をきちんと消化することすらできていない場合の方が多そうだが。

 

恐怖によるマネジメント

逆境時に恐怖心を追放する方法

  • 予測……何がいつ起こるか、当事者にできるかぎり十分に知らせる。
  • 理解……なぜそういうひどい行動が必要か、詳しく説明する。
  • 自制……何をいつ、どのようにして起こすか。できるかぎり自分の力でコントロールさせる。自分の運命は自分で決定させる。
  • 思いやり……直面している混乱や苦しみ、金銭的な重荷などに、思いやりを示す。

(142)

部下を動かすために恐怖を用いるな、と説く章の末尾の記述。閉鎖することが決まった工場の閉鎖間際の業績が、通常想定されるように悪化しなかったケースの話は印象的。たとえ敗戦処理でも、前向きに仕事をさせることができれば全く違ってくる。

 

内製化

アウトソーシングやパートタイマー(賃金は低く、諸手当もいらない)を使って、経費を削減することの、何が問題なのか?まず、「重要なエレクトロニクス関連部品を外注する」と、「HPはもはや社内でフィードバックを行う機能を失ってしまう。フィードバックによって、生産力、品質、欠陥、コストなど、ハードウエアの設計について貴重な情報が得られたのだが」。設計と生産が分離するので、しだいにハードウエア設計の高い能力まで失うことになる。(151)

書籍の中の重点は、このあとに続く「雇用機会の確保より、コストや収益、効率などを優先するというメッセージが社内に伝わる」ことの害悪にあるが、内製化が叫ばれるソフトウェア業界の人間としては上記を引いておきたい。

 

個人の行動を評価すること

多くの企業が使っている評価システムには、暗黙の行動モデルがある。それは、人間を経済的な要因で動くばらばらの個体と考え、社会的な生物という面を無視している。評価が個人的に行われるのも、人を個別にとらえている証拠である。評価方法では、①個人の成績は個人の決断や行動の結果だとし、②決断や行動には個人のコントロールと判断力が働いていると考える。したがって、成績は個人のものとみなしている。(163)

本当に評価すべきものを見つけられず、仕方なく個人を評価している企業もあるかも、ということは考えてみてもいいのかもしれない。上記の引用が載っているのは「重要でないことばかり評価している」と題する章である(原題は不明だが)。

 

立ち入り検査

書類で査定することを、フィードバックだと勘違いしているリーダーが多い。「査定用紙に書き込むのは〈立ち入り検査〉であって、フィードバックではない」とケリー・アランはいう。……「立ち入り検査に頼ると、コストはかさむし、長期的には何も改善しない。組織の競争力は落ちるばかりだ。このことを私たちは歴史から学んできた」(171)

「○○は〈立ち入り検査〉であって、フィードバックではない」ってフレーズ強い。「品質管理の人間どもにぶつけ(ry」って人は多いのではないか。以前にも引用したが、ケント・ベックエクストリームプログラミングに、「エンジニア部門とは別に品質管理部門を設けても敵になるだけで品質は良くならない」という話が出ていたのは強烈に印象に残っている。

 

意識調査の意義

調査をするだけでは特別な価値はない。調査を行なっている会社は山ほどあるが、その結果は活かされていない。インテュイットの従業員と会社の価値観が、調査結果を活かしているのだ。けれども、会社の実践を評価する手段がなければ、総合的な文化や価値観は行動に結びつかない単なる善意に終わってしまう。価値観、文化、従業員の質などが知識や目的意識を培い、それを行動に移すのを意識調査が助けているのである。(174)

活かされる未来の見えない意識調査にうんざりしている社員のみなさんこんにちは。以前、自社でも意識調査をしようという話が持ち上がったけど、行動に移す体制が整えられそうにないなと思っていたら結局やっていない。メトリクスとるのも同じだと思う。

 

競争と組織文化

協調性を重んじる社風を真剣に守るために、ときには雇用ではなく解雇もしなければならない。才能はあっても、競争心が強すぎたり、この主張が強すぎたりして、会社の文化に合わない人には、辞めてもらうことだ。それには、断固たる決断や実行力が必要になる。(210)

この本は、投資銀行の競争文化に対してかなり批判的な態度。社内で競争をするとノウハウの伝達等に対する障害となるというような話で、外との競争については否定はしていないが、業界全体でパイを食い合うというのもあるわけで、競争というのはなかなかに扱いづらい。

 

まとめ

冒頭で氾濫するビジネス書について皮肉っていたのが面白かったが、この本で得た知識をどのように組織活動に活かしていくのかというとそれもまた難しい。アンチパターン集なので、「あ、うちの組織今ダメだ!」と認識することにまずは活かしていくべきものか。