こまぶろ

技術のこととか仕事のこととか。

Angularで「ネストされたルート」を実装する(シンプルな実装 / モジュール切り出し / 遅延ロード)

この記事は write-blog-every-week Advent Calendar 2018 11日目の記事です。

前日の記事は、nitt-san(@nitt_san)さんの「インプットからアウトプットへ -2017年〜2018年の自分を振り返る-」でした。

nitt-san.hatenablog.com

Angular のルーティング機能を試したい

以前、Vue.jsを勉強していた際に、Vue Routerの「ネストされたルート」を扱う方法を試した。

ky-yk-d.hatenablog.com

Vue.jsにおける「ネストされたルート」は、Vue Routerの公式ガイドにも記載されている名称だ。

実際のアプリケーションの UI では通常複数のレベルの階層的にネストしたコンポーネントで構成されます。ネストされたコンポーネントの特定の構造に対して URL のセグメントを対応させることはよくあります。

今回は、Angularでこれを実現してみる*1。具体的には、

1.ルートモジュール単体で実装する
2.フィーチャーモジュールとそのルーティングモジュールを切り出す(通常ロード)
3.URLアクセス時に遅延ロードするように修正する

の三段階で実装していく。1の段階で既に上の記事で書いた「ネストされたルート」自体は実現できているのだが、その先に一歩進んで、フィーチャーモジュールの切り出しと遅延ロードも実装する。フィーチャーモジュールの切り出しはアプリの規模が大きくなると不可欠だし、遅延ロードもそれと関連した重要な機能だ。公式ドキュメントでも、「フィーチャーモジュールの遅延ロード」という項目が立っている。

サンプルコードは下記リポジトリを参照。各段階の事後の状態をぞれぞれ、

1.beforeブランチ
2.normal-loadブランチ
3.lazy-loadブランチ

として切ってある。

https://github.com/ky-yk-d/router-samplegithub.com

単一モジュールでの実装

今回は、最もシンプルなネスト構造を持つアプリケーションとして、下に示すようなSPAを実装する。最初に、これを単純にルートモジュールとルートのルーティングモジュールに記述してこのアプリを実装する(第1段階)。その後、このアプリケーションを機能上は変更せずに、リファクタリング(第2段階)および遅延ロード化(第3段階)をおこなっていく。

f:id:ky_yk_d:20181210231309g:plain

プロジェクトの作成〜コンポーネントの作成

Angular CLIを利用してプロジェクトの雛形とコンポーネントを作成する。

ng new router-sample
# ルーティングを利用するか聞かれるので"y"を選択
# スタイルシートの形式は何を選んでもよい
cd router-sample
ng generate component home # AppComponentの直下(1)
ng generate component feature # AppComponentの直下(2)
ng generate component feature/main # FeatureComponentの子要素(1)
ng generate component feature/sub #FeatureComponentの子要素(2)

以上を実行すると、/src/app配下は下記のように構成になる。

.
├── app-routing.module.ts
├── app.component.css
├── app.component.html
├── app.component.spec.ts
├── app.component.ts
├── app.module.ts
├── feature
│   ├── feature.component.css
│   ├── feature.component.html
│   ├── feature.component.spec.ts
│   ├── feature.component.ts
│   ├── main
│   │   ├── main.component.css
│   │   ├── main.component.html
│   │   ├── main.component.spec.ts
│   │   └── main.component.ts
│   └── sub
│       ├── sub.component.css
│       ├── sub.component.html
│       ├── sub.component.spec.ts
│       └── sub.component.ts
└── home
    ├── home.component.css
    ├── home.component.html
    ├── home.component.spec.ts
    └── home.component.ts

以上で、今回のアプリケーションに必要なコンポーネントは揃っている*2。今回のサンプルアプリでは、ネストの構造がわかりやすいように少しだけHTMLを編集しているが、本質的ではないので説明は省略する。

AppRoutingModuleを修正する

次に、AppRoutingModule(/src/app/app-routing.module.ts)を修正していく。このファイルは、ng newコマンド実行時に「ルーティングを使用する」を選択すると自動で作成されるが、自分で作っても良い。

/* import文省略 */
const routes: Routes = [
/* 追加する部分はここから */
  {path: '', component: HomeComponent}, 
  {path: 'feature', component: FeatureComponent,
    children: [
      {path: '', component: MainComponent},
      {path: 'sub', component: SubComponent}
    ]
  }
/* ここまで */
];

@NgModule({
  imports: [RouterModule.forRoot(routes)], // forRoot() を利用していることに注目
  exports: [RouterModule]
})
export class AppRoutingModule { }

forRoot()に渡しているroutes変数に、複数の要素を付加していく。path属性で指定したURLにアクセスすると、component属性で指定したコンポーネントが表示される。そして、ネストされたルートはchildren要素で指定すればよい。ここでは、FeatureComponentの内側のrouter-outletタグに、/featureにアクセスした場合にはMainComponentが、/feature/subにアクセスした場合にはSubComponentが表示されるように設定している。

ここまでで、実装ができたはずだ。改めて、このブランチのURLを貼っておく。

フィーチャーモジュールの切り出し(通常のロード)

ここまでで、機能としては実現できている。しかし、ルートモジュールであるAppModuleが個々のコンポーネントを全て知っている状態になっているのが気になる。今回のサンプルコード程度のコンポーネント数であれば問題はないが、長期的には管理しづらくなってしまう。そこで、Angularのモジュールの機能を用いる。モジュールとは、コンポーネントやサービスなどのファイルを束ねるためのものだ。

ちなみに、AppModuleも名前が示しているようにモジュールであり、これを/src/main.tsで下記のように指定することで、Angularアプリケーションが立ち上がった際に読み込まれるようになっている。

/* 略 */
platformBrowserDynamic().bootstrapModule(AppModule)
  .catch(err => console.error(err));

原則として、AppModuleで読み込んでいるモジュールがそのアプリケーションで使えるモジュールとなる*3。逆に言えば、AppModuleは下位にあるフィーチャーモジュールを読み込むことさえすれば、あとの管理は(ルーティングを含めて)そのフィーチャーモジュールに委譲することができるというわけだ。

Angular CLI を用いたモジュールの作成

さて、モジュールを作成していく。ここでもAngular CLIを利用する。

ng generate module feature --routing

上記のコマンドにより、Angular CLI で feature のモジュールを作成する。--routing オプションを付与することで、下記の2つのモジュールが生成される。

  • /feature/feature.module.ts
  • /feature/feature-routing.module.ts

github.com

FeatureRoutingModuleへのルーティング記述の移植

AppRoutingModuleに記載していたルーティングの記述を、FeatureRoutingModule(/feature/feature-routing.module.ts)に移植していく。ここはカット&ペーストしてしまえばよい。

/* import文省略 */
const routes: Routes = [
/* 移植したのはここから */
  {path: 'feature', component: FeatureComponent,
  children: [
    {path: '', component: MainComponent},
    {path: 'sub', component: SubComponent}
  ]}
/* ここまで */
];
 @NgModule({
  imports: [RouterModule.forChild(routes)], // AppRoutingModuleではforRoot()だったのがforChild()であることに注目
  exports: [RouterModule]
})
export class FeatureRoutingModule { }

FeatureModuleにコンポーネントを移植する

ルーティングの設定は以上で完了だ。しかし、このままではアプリケーションは機能しない。AppModuleでimportされ、declarationsに加えられていたフィーチャーコンポーネント(Feature/Main/Sub)を、フィーチャーモジュールに移植してやらないといけない。また、せっかく作ったFeatureRoutingModuleをFeatureModuleでimportしていることも確認しておく。

/src/app/feature/feature.module.ts

/* import文省略 */
@NgModule({
  declarations: [
    FeatureComponent, // AppModuleから移植
    MainComponent, // AppModuleから移植
    SubComponent // AppModuleから移植
  ],
  imports: [
    CommonModule,
    FeatureRoutingModule, // ルーティングモジュールをimportしている
  ]
})
export class FeatureModule { }

これで、フィーチャーのコンポーネントについての情報はルートのルーティングモジュールからは削除できる。その代わりに、FeatureModuleをAppModuleでimportすることで、間接的にFeatureRoutingModuleを利用できるようにする。

/* import文省略 */
@NgModule({
  declarations: [
    AppComponent,
    HomeComponent
  ],
  imports: [
    BrowserModule,
    AppRoutingModule, 
    FeatureModule // これを追加する
  ],
  providers: [],
  bootstrap: [AppComponent]
})
export class AppModule { }

これで、ルートであるAppModuleとAppRoutingModuleからはフィーチャーのコンポーネントやルーティングについての知識が消え、FeatureModuleに委譲することができた。フィーチャーのコンポーネントを読み込むのも、それを特定のURLに割り当てるのも、FeatureModuleの役割ということになる。

遅延ロードへの変更

さて、最後に、遅延ロードへの変更を行う。遅延ロードとは、読んで字のごとく、フィーチャーのコンポーネント(やサービスなど、モジュールに含まれるもの)の読み込みを必要になったタイミングまで遅らせることだ。先に読み凍んでおくことでスムーズな画面の切り替えが可能になるのがSPAの良さだが、あまり使われないのに重い画面などがある場合には却って初回のロードが長くなってしまう。遅延ロードを利用することで、読み込みのタイミングをずらすことができる。

AppRoutingModuleにルーティングを再び追加する

遅延ロードは、フィーチャーモジュールの読み込みを、URLへのアクセスのタイミングまで遅らせることによって実現する。そうであるとすれば、第二段階でしたように、/featureというパス自体の情報をFeatureModule(より正確に言えば、それが読み込んでいるFeatureRoutingModule)に留めておくわけにはいかない。

app-routing.module.tsに再度パスを追加し、Componentは記載せずにloadChildrenを記載する。読み込みの対象となるフィーチャーモジュールを、[ファイル名(拡張子不要)]#[クラス名]という指定する。ファイルの冒頭でimportする必要はない。

const routes: Routes = [
  {path: '', component: HomeComponent},
  {path: 'feature', loadChildren: './feature/feature.module#FeatureModule'} // パスを再び記載する
];
@NgModule({
  imports: [RouterModule.forRoot(routes)],
  exports: [RouterModule]
})
export class AppRoutingModule { }

FeatureRoutingModuleからURLの情報を削除する

また、/featureというURLの情報はAppRoutingModule側に移してしまったので、FeatureRoutingModuleにはその情報は余計だ。削除する。

const routes: Routes = [
  {path: '', component: FeatureComponent,  // path: 'feature' だったところを path : '' に修正
  children: [
    {path: '', component: MainComponent},
    {path: 'sub', component: SubComponent}
  ]}
];
@NgModule({
  imports: [RouterModule.forChild(routes)],
  exports: [RouterModule]
})
export class FeatureRoutingModule { }

FeatureModuleのAppModuleでの読み込みを削除する

最後に、AppModuleでFeatureModuleを読み込むのをやめる。すでに、AppRoutingModuleで遅延してロードするモジュールとしてloadChildren: './feature/feature.module#FeatureModule'と指定しているのだから、AppModuleから先に読み込んでしまってはいけない。

@NgModule({
  declarations: [
     AppComponent,
     HomeComponent
  ],
  imports: [
    BrowserModule,
// ここでFeatureModuleをimportしていた
    AppRoutingModule
  ],
  providers: [],
  bootstrap: [AppComponent]

これで、遅延ロードに変更することができた。遅延ロードができているかどうかを確認したい方は、フィーチャーモジュールのコードのどこかにconsole.log()か何かを仕込んでみるだけでも確認ができる。

まとめ

  • Angular で「ネストされたルート」を実装した
  • ルートモジュールからフィーチャーモジュールを切り出した
  • フィーチャーモジュールを遅延ロードするように変更した

ルーティングを思い通りに実装できると、SPAの骨格を作ることができると思う。まず骨格を作った上で、個々のコンポーネントやサービスを充実させていくのがひとつの道筋になるのではないだろうか。Angularはまだ勉強し始めたばかりなのだが、これから他の機能も試していきたい。


write-blog-every-week Advent Calendar 2018 、明日の記事の担当は、KIDANI Akito@kdnakt さんです!*4

kdnakt.hatenablog.com

*1:筆者はAngularの入門者であることをあらかじめご了承願いたい。もし記述に誤りを見つけた方がいれば、コメントやTwitter、GitHubでご連絡をいただけるとありがたい。

*2:ng generateコマンドでコンポーネントを作成すると、自動的にapp.module.tsが更新され、新規作成したコンポーネントをimport文で読み込み、declarationsに追加してくれる。手動でコンポーネントを作る場合は、モジュールに追加するのを忘れてはならない。

*3:遅延ロードはその例外という位置付けになる。

*4:公開されたのでリンクを貼った。

後追いじゃない「成長」が欲しい

この記事は、#セイチョウ・ジャーニー Advent Calendar 9日目の記事です。

前日の記事は、べこ(@becolomochi)さんの「仕事を通して成長について考えてみた」でした。

note.mu

「成長とは習慣の改善である」?

2018年10月8日に開催された「技術書典5」において、「Growthfaction」というサークルから『セイチョウ・ジャーニー』が頒布された。

booth.pm

僕はこのサークルのメンバーではないが、知人が複数関わっていることから、「付録A みんなのセイチョウ・ジャーニー」に寄稿をさせていただいた。指定のテーマである「あなたにとっての成長とは」という問いに対して、下記のように書いた。

悪い習慣を捨てて、良い習慣を身に付けること。そして、身に付けた良い習慣をより優れた習慣にすることです*1

寄稿をしてから、このテーマについては折に触れて再考する機会があった。その過程で、なぜ上記のような内容で寄稿をしたのかを顧みることにもなったので、(寄稿した文章より長いが)補遺としてまとめておきたい。

先に全体の趣旨を述べておく。習慣という言葉を使ったのは、成長というものを、時代の流れ、状況の変化に翻弄されるようなものとは切り離して考えたかったからだ。僕は、1年、3年もすれば消費期限が切れてしまうようなスキルを身に付けることを、成長とは捉えていない。成長というのは、もっと持続的で連続的なものだと思っている。そうでなければ、成長するというのは外界への反応でしかなくなってしまう。そうではない成長のあり方として、習慣というものを掲げたのだ。

「後追いの成長」の辛さ

よく、「エンジニアは技術を学び続けなければいけなくて辛いからマネージャーに……」という言葉が批判される。これ自体は藁人形論法のようにも思えるのだが、エンジニアが技術にキャッチアップすることが不可欠な職種であり、それを苦しく思う人がいるのは恐らく事実だ。上の発言をする人が苦しんでいるのは、技術が日進月歩であり、常にそれにキャッチアップしていかなければ、仕事ができなくなってしまうという切迫感があるからだろう。

もちろん、マネージャーも学び続けなければならない。マネージャーが扱う個々の人、組織はそれぞれに固有のものを持っており、誰一人(どれひとつ)として同じものはない。過去に上手くいった対応方法を他の場面に適用するだけで全てが解決するような仕事ではない。

しかし一方で、人や組織の固有性は、常に新しいものが生まれてきているというよりは、いくつかの山の存在する分布のなかでのバリエーションというイメージが近い。だから、当然全ての人や組織に当てはまる解決策を完璧に身につけることはできないのだけれども、ある程度の典型例への対応方法を身につけ、そこからの「ずれ」へのアジャストをより精緻に行なえるように状況の認識力と対応の引き出しを増やしていくというアプローチが取れそうだ。

人や組織に対応する仕事の場合は、それまでに身につけていたものが全く適用できなくなるような地殻変動はあまりイメージできない。もちろん人のライフスタイルや組織のあり方、社会通念の変化で時代遅れとなる方法は存在するが、人間という生き物のあり方はそうそう大きく変わるものではないから、人間についての知見の消費期限は短くない。

これに対して、新たな人工物が生まれるスピードは速い。技術は日進月歩だ。ある日突然ではないにせよ、じわりじわりと世界が変わっていき、数年の間で全くゲームのルールが変わってしまうというのはありうる事象だろう。だから、新しいものについていかないといけないように感じる。未来の技術をあらかじめ学んでおくことはできないから、学びは常に後追い的なものになる。その学びに持続性はない。技術者としての学びは、変わりゆく状況にその都度対応するものになる。それは成長と言えるのだろうか。

未来の自分に何を渡せるか

未来の自分の代わりに未来の技術を学ぶことはできない。未来の自分が時代の変化についていってくれるかどうかはわからない。では、「未来の自分のために何ができるか」を問えばよいのか。未来の自分のために現在の自分が何かをしてあげるという発想もそれはそれで辛い。とはいえ、未来なんて知ったことはないと開き直れるの人はそもそも悩まない。

現在の自分にできるのは、未来の自分が新しいことを学ぶための素地を整えておくことだけだ。それは一段階、メタなレベルの能力ということになる。メタというのは、学ぶための学び、スキルのためのスキル、能力のための能力ということだ。素地の整え方としては、比較的消費期限の長い知識を身につけておくことがひとつ考えられる。

エンジニアであれば、基盤となるような技術について学んでおくことは有意義だろう。変化の激しいと言われるWeb(特にフロント)技術とはいえ、結局はTCP/IPの枠組みの中での変動ですよね、という話を知人としたことがあったし、NoSQLがSQLやリレーショナルデータベースを駆逐したわけでもない(そもそもNoSQLは"Not Only SQL"だとよく指摘されている)。あるいは、設計や開発手法などの抽象化された事柄を学ぶのも役立つだろう。

やや脱線するが、自分が好んで学ぶのはこういった部分だ。あまり意識したことはなかったが、「すぐに消費期限が切れそうなものは学びたくない」という心理が働いていたかもしれない。「オブジェクト指向」や「パターン」といった抽象的なものを学ぶことはもちろん無駄にはならないだろうし、上手く学べば優れた戦略となるだろう。戒めなければならないのは、現在すでに存在している具体的なものの学習から逃げるための方便として使ってはならないということだ。必要なら具体的なものを学ばなければならないし、新しい言語やツールを学ぶことは大切だ。それは次に述べることにも関連している。

後追いにならない成長としての「習慣の改善」

未来の自分に渡せるものは知識だけではない。ここで「習慣」というものが出てくる。習慣は定義上、持続性のあるものだ。基礎的な知識もまた忘却を免れないのに対して、習慣はそれが習慣である限り持続する。習慣を通じて自己のうちに一貫性を見出すことができるし、一貫性を見出すことでその改善という連続的な進歩を感じることもできる。

良い習慣を身につけ、それを維持・改善するのは、現在の自分が未来の自分のためにできることだ。そして、未来の自分はその良い習慣を受け取り、そこから果実を得ながら更に習慣を改善することができる。習慣化することによって行動にかかる労力は低下するから、さらに優れた、本来であれば多くの労力を必要とする行動にも出やすくなる。

「新しい技術を学ぶ」ということの意義も、習慣ということを考えるとより大きく評価できる。現在において新しい技術を学ぶことは、その技術についての知識や、学ぶ過程で得られる周辺知識を与えてくれるだけでない。もし、そこで学んだ技術を実際の業務などに活かすことができず、使わないままに忘れてしまったとしても、新しい技術を学ぶ習慣さえ身につけていれば、学びは(歩どまり率は悪くても)蓄積されていくし、未来の自分が新しい技術を学ぶことを楽にしてくれる。

また、良い習慣に基づいて行われる思考や行動は、現在の自己に与えられた課題に対する応答としても優れているものでありうる。ここで念頭に置いているのは、ものごとの受け止め方や、コードの書き方などだ。人に何か否定的なことを言われたときに反射的に感情で応じるのではなく一旦飲み込むとか、コードを書くときに保守する人間のことを考えるとか、そういった行動は、現在において役に立つものである。こういった思考・行動を習慣化することができれば、「未来のために現在を消費する」というだけでなく、現在をより良く過ごすことにも繋がる。

まとめに代えて

以上、「成長は習慣の改善である」という定式化の背景を成す考えを示してみた。まとめに代えて、この記事のテーマと密接に関わる二冊の本を紹介して終えることとする。

このような発想に立ったときに、どのような習慣を身につけば良いかということについては、『七つの習慣』がやはり最も著名で手に取りやすい教材となる。帯に著名人の名前がずらりと並んでいるなど、売られ方が実に「自己啓発本」らしくて鼻につくのだが、中身はさすがに優れている。P/PCバランスや「重要だが緊急ではないこと」、「Win-Win or No Deal」といったシンプルだが有用なアイデアも多く得ることができる。

完訳 7つの習慣 人格主義の回復

完訳 7つの習慣 人格主義の回復

また、現代人の、とりわけ職業人にとってそのまま役立つかどうかはわからないが、考え方の枠組み、議論の進め方のお手本としては、古典中の古典であり、『七つの習慣』の思想的源流の一つであるアリストテレス『ニコマコス倫理学』を挙げておきたい。古代ギリシア哲学というとハードルが高いように思うかもしれないが、幸福と徳、それと習慣との関係が卑近な例も用いられながら議論されている。複数の訳本が存在するが、下に掲げた光文社古典新訳文庫の訳は新しいこともあり平易で読みやすく、訳注や解説も充実しているのでおすすめだ。

ニコマコス倫理学(上) (光文社古典新訳文庫)

ニコマコス倫理学(上) (光文社古典新訳文庫)

明日の記事は、このすみ(@konosumi)さんです*2

www.konosumi.net

*1:『セイチョウ・ジャーニー』93ページ。

*2:公開されたのでリンクを貼った。

ドラッカーの『経営者の条件』を読んだ

P. F. ドラッカーの『ドラッカー名著集1 経営者の条件』を読んだ。

ドラッカー名著集1 経営者の条件

ドラッカー名著集1 経営者の条件

 

読んだ、と書いたが、読んだのは記録によると2017年4月29日だ*1。この記事のベースは読んだときに書き留めていたメモであり、公開するつもりはなかった。しかし、下記のブログで紹介されていたことから、誰かの役に立つこともあるかもしれないと考え、公開することにした。 

nitt-san.hatenablog.com

ほぼ本文を切り貼りしただけのメモだったため、公開に際して、コメントを拡充し、引用の体裁を整えた。

組織全体の業績に責任を持とうとする者こそマネジメントである

肩書や地位がいかに高くとも、権限に焦点を合わせる者は自らが単に誰かの部下であることを告白しているにすぎない。これに対し、いかに若い新入りであろうと、貢献に焦点を合わせ成果に責任をもつ者は、最も厳格な意味においてトップマネジメントの一員である。組織全体の業績に責任をもとうとしているからである。(79)

入社1ヶ月の時期にこの本を読んでこの一節をメモっているのは我ながらいじらしい。あるいは、入社1ヶ月という時期だからこそ大真面目にメモすることができたとも言えるかもしれない。自分はすごいことができるわけじゃないんだ、ということを1年半を通して痛感させられ、(正当だとは思うが)一定程度の無力感を抱えるようになった今この一節を読むと、複雑な気持ちになる。

知識の全領域に自らの知識を位置付けるゼネラリスト

ゼネラリストについての意味ある唯一の定義は、「自らの知識を知識の全領域に正しく位置づけられる人」である。いくつかの複数の専門領域について知識をもつ専門家もいる。だがたとえ複数の専門領域をもっていてもゼネラリストとはいえない。単に、いくつかの専門領域のスペシャリストであるにすぎない。たとえ三つの領域に通じていても、一つにしか通じていない人と同じように偏狭でありうる。 しかし自らの貢献に責任をもつ者は、その狭い専門分野を全体に関係づけることができる。もちろんたくさんの知識分野を統合するなどということは決してできない。だが彼らは、自らの仕事の成果を生かしてもらうには、ほかの人のニーズや方向、限界や認識を知らなければならないことを理解する。(91)

当時の自分は、何を思ってこの一節をメモしたのだろうか。未経験でソフトウェア業界に入って、当初から「自分はスペシャリストにはなれない」、「でもゼネラリストにならなれる」、と考えていたのだろうか。

 この1年半の間のうちの多くの時期で、自分の頭を支配していた問いがある。それは、「技術で生きるか、マネジメントで生きるか」というものだ。「ゼネラリストでなければ」という命題でもって、この問い自体を消滅させてしまうことはできないが、マネジメントで生きていくなら技術は要らないとか、逆に技術で生きていくからマネジメントは要らないとか、そういう話はできないな、と改めて思う。

また、以前、勉強会で川口恭伸さんが紹介していた、MITの石井裕さんの言葉を思い出した。生半可な「ゼネラリスト」ではなく、MITメディアラボ教授という文句なしのスペシャリストの言葉は重い。

一人の人間がすべてでなきゃいけない。 すなわち、ひとつのラベルを貼って、レッテルを貼って、 あなたは技術者、あなたはCognitive Science(認知科学)、あなたはSociology、 といった時代ではもうなくなっている。 逆に解かなきゃいけない問題がこれだけ複雑になって、 人間、その信義、そのsociety、commitと、 これだけ複雑に絡んでいるときに、それをデザインするときに、ひとつの学問だけでやっていく時代はもう終わっている。

石井裕先生の2005年の講演のときにとったメモ - kawaguti’s diary 

「あなたに何を期待すればいいですか」と問う

上司が部下に何かをいおうと努力するほど、かえって部下が聞き違える危険は大きくなる。部下は、上司がいうことではなく、自らが聞きたいことを聞き取る。 ところが仕事において貢献する者は、部下たちが貢献すべきことを要求する。「組織、および上司である私は、あなたに対しどのような貢献の責任を期待すべきか」「あなたに期待すべきことは何か」「あなたの知識や能力を最もよく活用できる道は何か」を聞く。こうして初めてコミュニーケーションが可能となり容易となる。その結果、まず部下が、「自分はどのような貢献を期待されるべきか」を考えるようになる。そこで初めて、上司の側に、部下の考える貢献についてその有効性を判断する権限と責任が生じる。(93)

上司に対して、「自分に何を期待すべきか」を伝えようという話が、ドラッカーの別の本でもされていたように思う。それが強く印象に残っていて、半年前まではかなり上司に「自分はこう貢献できると思う」と伝えようとしていた気がする(うまく定式化も論拠づけもできていなかったが)。

数ヶ月前に、プロジェクトの中で、自分なりにボトルネックを探したつもりになって色々と動いてみていた時期に、上司から「お前に期待しているのはそこじゃない」という明確なメッセージをもらった。あのときはかなり落ち込み、上司に対しても不満を覚えたが、事あるごとに話に付き合ってもらって少しは状況が見えてきた今となってみれば、あれは上司にとって「部下の考える貢献についてその有効性を判断する権限と責任」を果たした行為だったんだろうと思う。

上司の強みを生かし、自分を活用させよう

企業、政府機関、その他あらゆる組織において、「上司にどう対処するか」で悩まない者はいない。実のところ答えは簡単である。成果をあげる者ならばみな知っていることである。上司の強みを生かすことである。これは世間の常識である。現実は企業ドラマとは違う。部下が無能な上司を倒し、乗り越えて地位を得るなどということは起こらない。上司が昇進できなければ 部下はその上司の後ろで立ち往生するだけである。たとえ上司が無能や失敗のために更迭されても、有能な次席があとを継ぐことはない。外から来る者があとを継ぐ。そのうえその新しい上司は息のかかった有能な若者を連れてくる。したがって優秀な上司、昇進の早い上司をもつことほど部下にとって助けとなるものはない。しかも上司の強みを生かすことは部下自身が成果をあげる鍵である。上司に認められ、活用されることによって、初めて自らの貢献に焦点を合わせることが可能となる。自らが信じることの実現が可能になる。

あまり大きくない所帯に勤めていて、かつまだ最初の昇進すら経験していないので、ピンとくるわけではないが、この指摘は重要なのだろうと思う。自分の上司の強みが何か、というのは普段あまり考えることはない。自分が、自分が、というのが先に来てしまっていて、上司もまた一人の組織人であることを忘れていたかもしれない。

やらないことリストこそが大事

状況からの圧力は、未来をより過去を、機会よりも危機を、外部よりも内部を、重大なものよりも切迫したものを優先する。実は、本当に行うべきことは優先順位の決定ではない。優先順位の決定は比較的容易である。集中できる者があまりに少ないのは、劣後順位の決定、すなわち取り組むべきでない仕事の決定とその決定の遵守が至難だからである。延期とは断念を意味することを誰もが知っている。延期した計画を後日取り上げることほど好ましからざるものはない。後日取りあげてももはやタイミングは狂っている。タイミングはあらゆるものの成功にとって最も重要な要因である。(149)

青字の箇所が、メモを取った当時の強調で、赤字の箇所が今回つけた強調である。赤字の箇所は、アジャイルの文脈でよく言われる「やらないことリスト」を遵守することの重要さと難しさを指摘している。

青地のものについては、以前紹介した『Clean Coder』の一節と通ずるところがある。下記の引用は、やや強い主張ではあるものの、大事なことを言っているといつも思っている。

緊急時になれば、自分が何を信じているのかがわかる。規律を守っていれば、その規律を本当に信じていると言うことだ。逆に言うと、緊急時に普段の行動を変えてしまえば、その行動を信じていないと言うことだ。平常時にTDDの規律を守り、緊急時にそれを守らないとすれば、TDDの効果を心から信じていないということだ。平常時にコードをクリーンに保ち、緊急時に乱雑にするのであれば、乱雑が速度を落とすことを信じていないのだ。平常時にペアを組まず、緊急時にペアを組むのであれば、ペアのほうが効率的だと信じているのだ。緊急時に安心して守れるような規律を選ぼう。そして、それを常に守ろう。規律を守ることが緊急時から逃れる最善の方法である。ピンチに陥っても行動を変えてはいけない。規律が最善の方法であれば、緊急時になっても守るべきである。(156)

Clean Coder を読んだ - こまどブログ

読んだときの感想と再読に向けて

さすがにドラッカー先生で、正しそうな洞察に満ちている。

それが本当に正しいかどうかは、現実を見ることによってしかわからないだろう。

これは以前の感想。1年半という短い時間ではあるものの、多少なりとも「現実を見る」ことをした今の自分には、果たしてドラッカーのこの本はどう読めるだろうか。時間があればゆっくり読み直したい。

 

*1:入社後1ヶ月も経っていない時期。

EC2 Amazon Linux に Java(OpenJDK) / Tomcat / GitBucket / gitbucket-label-kanban-plugin をインストールする

思うところあり掲題の構成でサーバを立てたので、メモを残す。

  • EC2のAmazon Linuxインスタンスを作成し、
  • OpenJDKをインストールし、
  • Tomcat 8 を立て、
  • GitBucket を構築し、
  • gitbucket-label-kanban-plugin を導入

する手順。環境構築苦手マンなので、Unix系OSのコマンドの基本的な部分の補足も含む。間違っているところ、不要な手順があったらご指摘ください。

環境

  • macOS Mojave
  • バージョン 10.14.1

EC2インスタンスの作成

AWS コンソールからインスタンスを作成する。

f:id:ky_yk_d:20181129001638p:plain

AMI は、下のものを選択してみる*1

Amazon Linux AMI 2018.03.0 (HVM), SSD Volume Type - ami-063fa8762cdc9a5a6

AMIの選択以降は、デフォルトで進める。インスタンスを作成する直前に、キーペアを作成させられるため、pemファイルをダウンロードして適当なところに配置しておく(SSHアクセスする際にこのファイルへのパスを指定することになる)。

セキュリティグループの設定

セキュリティグループを新たに作成。インバウンドのルールを下記のように設定した。

タイプ プロトコル ポート範囲
HTTP TCP 80
SSH TCP 22
HTTPS TCP 443
カスタムTCPルール TCP 8080

※ソースは今回は自分のPCからのみのアクセスとしたいため「マイIP」で設定。

今回は、SSHmacのTerminalからのアクセス)、カスタムTCPルール(Tomcatのデフォルトポート)しか利用していないので、HTTPとHTTPSは要らないかもしれない。

Elastic IP の割り当て

発行して割り当てる。インターネット経由でアクセスしたいため。AWSコンソールからボタン数回で。

SSHでサーバにアクセス

sshコマンドでアクセスする。

webkaru.net

-i オプションは、秘密鍵ファイルを指定するもの。

$ ssh ec2-user@[Elastic IP] -i [秘密鍵のパス] 
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
@         WARNING: UNPROTECTED PRIVATE KEY FILE!          @
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
Permissions 0644 for '[秘密鍵のパス]' are too open.
It is required that your private key files are NOT accessible by others.
This private key will be ignored.
Load key "[秘密鍵のパス]'": bad permissions
ec2-user@[Elastic IP]: Permission denied (publickey).

秘密鍵の権限が広すぎると怒られている。

yachibit.hatenablog.jp

たまにしかサーバを触らないので毎回忘れるパーミッションの表記をまとめておく。

数字 二進数 英字 意味
7 111 rwx 読・書・実行
6 110 rw- 読・書
5 101 r-x 読・実行
4 100 r--
3 011 -wx 書・実行
2 010 -w-
1 001 --x 実行
0 000 --- なし

上の表に従えば、0644はグループと他人に読み取りの権限がある。これがダメっぽいので600にする。あとで出てくる755と合わせてまとめておく。

数列 本人 グループ 他人
644 rw- r-- r--
600 rw- --- ---
755 rwx r-x r-x
$ chmod 600 [秘密鍵のパス]

再度SSH接続を試みる。

$ ssh ec2-user@[Elastic IP] -i [秘密鍵のパス] 

無事、アクセスできた。

f:id:ky_yk_d:20181128232649p:plain

Open JDK 1.8.0 のインストール

今回のインスタンスにはデフォルトで1.7.0系がインストールされている。

$ java -version
java version "1.7.0_191"
OpenJDK Runtime Environment (amzn-2.6.15.4.82.amzn1-x86_64 u191-b01)
OpenJDK 64-Bit Server VM (build 24.191-b01, mixed mode)

1.8.0が欲しいのでyumでインストールする。-y オプションは、すべての質問にyesと応答するもの。

$ sudo yum -y install java-1.8.0-openjdk-devel 

新たにインストールしたJavaを利用するように変更する。下記を参考に。

graziegrazie.hatenablog.com

$ sudo update-alternatives --config java

f:id:ky_yk_d:20181128233047p:plain

使用するJavaのバージョンが変更されていることを確認する。

$ java -version
openjdk version "1.8.0_191"
OpenJDK Runtime Environment (build 1.8.0_191-b12)
OpenJDK 64-Bit Server VM (build 25.191-b12, mixed mode)

Tomcat のインストール

特に意味はないが、8.5.x の最新である 8.5.35 をインストールした。ちなみに最新版は 9.0.13 である。

Apache Tomcat® - Apache Tomcat 8 Software Downloads

下記の記事を参考にした。

qiita.com

ただし、Amazon Linux は sytemd ではなく init を使用することになるため、「初期設定 & 起動」以降の手順には従っていない。

qiita.com

$ cd /usr/local/src 
$ sudo mkdir tomcat
$ cd tomcat
$ sudo wget http://ftp.riken.jp/net/apache/tomcat/tomcat-8/v8.5.35/bin/apache-tomcat-8.5.35.tar.gz # 公式ミラーサイトから取得する
--2018-11-28 13:56:07--  http://ftp.riken.jp/net/apache/tomcat/tomcat-8/v8.5.35/bin/apache-tomcat-8.5.35.tar.gz
ftp.riken.jp (ftp.riken.jp) をDNSに問いあわせています... 134.160.38.1
ftp.riken.jp (ftp.riken.jp)|134.160.38.1|:80 に接続しています... 接続しました。
HTTP による接続要求を送信しました、応答を待っています... 200 OK
長さ: 9642757 (9.2M) [application/x-gzip]
`apache-tomcat-8.5.35.tar.gz' に保存中

apache-tomcat-8.5.3 100%[===================>]   9.20M  27.8MB/s    in 0.3s    

2018-11-28 13:56:08 (27.8 MB/s) - `apache-tomcat-8.5.35.tar.gz' へ保存完了 [9642757/9642757]

www.atmarkit.co.jp

ダウンロードしてきたものを解凍する。

$ sudo tar zxvf apache-tomcat-8.5.35.tar.gz
$ ls
apache-tomcat-8.5.35  apache-tomcat-8.5.35.tar.gz

/opt/配下に移動し、tomcatユーザに権限を与える。

$ sudo mv apache-tomcat-8.5.35 /opt/
$ sudo useradd -s /sbin/nologin tomcat
$ sudo chown -R tomcat. /opt/apache-tomcat-8.5.35 
$ sudo ln -s /opt/apache-tomcat-8.5.35 /opt/tomcat # シンボリックリンクの作成

下記の内容をファイルに書き込む。

export CATALINA_HOME=/opt/tomcat

$ cd /etc/profile.d
$ sudo vi tomcat.sh

tomcat を立ち上げてみる。

$ sudo -u tomcat /opt/tomcat/bin/startup.sh
Using CATALINA_BASE:   /opt/tomcat
Using CATALINA_HOME:   /opt/tomcat
Using CATALINA_TMPDIR: /opt/tomcat/temp
Using JRE_HOME:        /usr
Using CLASSPATH:       /opt/tomcat/bin/bootstrap.jar:/opt/tomcat/bin/tomcat-juli.jar
Tomcat started.

http://[Elastic IP]:8080 にアクセスする。

f:id:ky_yk_d:20181128234015p:plain

アクセスできるようになった。

Gitbucket のインストール

下記をインストールしたい。

github.com

下記を参考にする。

qiita.com

インストールする。

$ cd /opt/tomcat
$ sudo chmod webapps 755 # tomcat ユーザーにしかRead権限がない状態(drwxr-xr-x)ので、権限を追加
$ sudo wget https://github.com/takezoe/gitbucket/releases/download/4.29.0/gitbucket.war -O gitbucket.war
$ sudo -u tomcat /opt/tomcat/bin/startup.sh # tomcat を再起動する

http://[Elastic IP]:8080/gitbucket/ にアクセスする。

f:id:ky_yk_d:20181129000014p:plain

アクセスできた。

Kanban プラグインのインストール

下記をインストールする。

github.com

GitHubのREADMEには下記のようにある。

Download jar file from the release page and put it into GITBUCKET_HOME/plugins.

GITBUCKET_HOMEは、GitBucketを動かしているユーザのホームにある.gitbucketディレクトリらしい。移動する。

$ cd /home
$ sudo chmod 755 tomcat
$ cd tomcat
$ sudo chmod 755 .gitbucket
$ cd .gitbucket
$ sudo chmod 755 plugins 
$ cd plugins # ここが `GITBUCKET_HOME`/plugins
$ sudo wget https://github.com/kasancode/gitbucket-label-kanban-plugin/releases/download/2.0.3/gitbucket-label-kanban-plugin_2.12-2.0.3.jar 
$ sudo -u tomcat /opt/tomcat/bin/startup.sh # tomcat を再起動

root/rootでログインして、リポジトリを作ると、サイドバーに「Kanban」が現れている。クリックするとアクセスできる。

f:id:ky_yk_d:20181129001218p:plain

Kanbanをためす

Label に TODO と DOING を作成し、サンプルの Issue を作って動かしてみた。

f:id:ky_yk_d:20181129012307g:plain

ぬるぬる動く。

ちなみに、Gif画像の作成は下記の記事を参考にした。便利な世の中。

qiita.com

感想

取り組み始めてみればそこまで難しくはなかった。新しいツールを自力で導入できることは、プロセス改善のためには必須スキルなので、少しずつ磨いていきたい。

また、Trello などのクラウドのツールを使えない現場で働くみなさんは、GitBucket + gitbucket-label-kanban-plugin でカンバン生活を始めてみてはいかがだろうか。。

カンバン仕事術

カンバン仕事術

*1:Javaが入っているというのに惹かれての選択だが、入っているのが1.7.0系だったため結局入れ直すことになった。

開発組織のプラクティスや文化を科学する:『LeanとDevOpsの科学』書評

11月22日(昨日!)に発売されたばかりの、『LeanとDevOpsの科学[Accelerate] テクノロジーの戦略的活用が組織変革を加速する』を読んだ。

この本は、すぐに現場に活かせる新しい知見を提供するものことを主眼としたものではない。タイトルにあるように、科学の本なのだ。しかし、人文系出身の自分にも読みやすい形で、論文の成果を提示してくれる。そして、その成果の中には、現場のエンジニアとして役立てられるものも含まれている、価値のある書籍だ。以下、紹介したい。

書籍の特質

科学的アプローチ

ソフトウェア分野においては、プラクティスを紹介するような書籍が数多く出版されている。それらは、読者が自らの現場で闘うための武器を与えてくれる。

本書は、そういった(優れたものを数多く含む)書籍とは、趣きを異にしている。この書籍と一般的な書籍との差異は、この書籍が科学的なアプローチを採用している点にある。「はじめに」には以下のようにある。

本調査研究は、現在まだ市場で満たされていないニーズに応じるためのものである。目標は、「慣例上、学問の世界でしか用いられてこなかった厳格な研究方法を用い、結果を産業界にも公表することで、ソフトウェアの開発とデリバリの状況を改善すること」である。単なる逸話やチームの体験談を提供するのではなく、統計的に有意な方法でパフォーマンスの改善を促すケイパビリティを特定・理解する方法を確立することで、業界全体の水準向上の一助となるのではないかと考えた。*1

この書籍も、様々な武器を読者に提供してくれる。しかし、「その武器がどのような事柄に対してどのように有用か」を科学的手法によって明確に示している点がこの書籍の特徴だ。書籍の中の語を用いて説明を試みるならば、計測したい複数の「構成概念」を設定し、これを計測するためのアンケート調査を実施し、統計学の手法を用いて、これらの構成概念間にどのような相関や因果関係があるのか(ないのか)を明らかにしているのだ。

主題

本書で計測対象としている構成概念には、様々なものが含まれる。 一部を紹介すると、「ソフトウェアデリバリのパフォーマンス」、「帰属意識の強化」、「バーンアウトの軽減」、「デプロイ関連の負荷」、「組織全体のパフォーマンス」、「Wesrtumが推奨する組織文化」などがある。「組織文化」のような一見すると科学的手法になじまないようなものも扱っている点が面白い。

本書の主要なテーマである「デリバリのパフォーマンス」について少しだけ紹介する。デリバリのパフォーマンスを測定する尺度として、本書では以下の4つを採用している。

  • 変更のリードタイム
  • デプロイの頻度(年間デプロイ件数)
  • 平均修復時間
  • 変更失敗率

これらの尺度によって測定されるデリバリのパフォーマンスで、チームはハイパフォーマー、ミドルパフォーマー、ローパフォーマーの3つに区分される(クラスター分析)。この区分を用いて、どのような他の構成概念に「デリバリのパフォーマンス」が相関・因果関係を持つのかを明らかにするのが本書のメインテーマである。

各部の簡単な紹介

第1部

第1部「調査結果から見えてきたもの」では、デリバリのパフォーマンスを中心とした、様々な構成概念の間に見出される関係が説明される。詳述は控えるが、そこでは「継続的デリバリの実践度が増すと、職務満足度ややりがいが高まる」*2や、「WIP制限が単独ではデリバリのパフォーマンスの有力な予測尺度になりえない」*3などといった興味深い命題も提示される。

第2部

第2部「調査・分析手法」では、第1部の成果を導き出した研究の手法が説明される。研究はアンケート調査に基づいているのだが、このアンケート調査に対する不信に対しても丁寧に応えている。この第2部の記述は、統計学やアンケート調査の学術的トレーニングを受けていない人に向けて書かれており、どのような質問項目が適切か、質問項目によって「構成概念」が適切に計測できているかをどのように判断するのか、なども解説される。この第2部は、他のソフトウェア分野の書籍にはない貴重な部分だろう。

第3部

第3部では、第1部で紹介された知見を実際に応用する助けとして、ING Netherlandsにおける組織改善の現場事例が紹介されるとともに、そこで観察されたプラクティスが整理した形で提示される。類書の事例・プラクティス紹介と一線を画しているのは、プラクティスのなかで本書の研究でパフォーマンスの高さと相関があることが示されたものに印が付けられていることだ。末尾近くで、高パフォーマンス文化を獲得するためには、「エビデンスに基づく実験や学びを繰り返し、各組織の状況や組織文化にふさわしい新たな協働方式を開発していかなければならない」*4と述べられている点にも、この書籍全体を貫く精神が反映されていると言えるだろう。

雑感

冒頭でも述べたように、本書で紹介されている知見は、必ずしも目新しいものではない。現場と向き合うための新しい知恵を求めて本書に臨む人は、物足りなさを感じることさえあるだろう。

しかし、それは本書の価値を減ずるものではない。本書の価値は、科学的アプローチで我々の「事実だと思っていたこと」を裏付けている点にある。プラクティスの有効性に根拠を求めるような人(あるいは、そのような人にプラクティスの導入を説得しようとする人)には、本書は実に有用であるだろう。折しも下記のようなTweetをしていた自分には良い模範となる書籍だった*5

最後に、本書でソフトウェアのデリバリのパフォーマンスを改善するのに有用だと指摘されるケイパビリティのリストを示しておく。下記の内容に関心を持たれた方は、本書を手に取られてはいかがだろうか。


  • 継続的デリバリの促進効果が高いケイパビリティ
    • バージョン管理
    • デプロイの自動化
    • 継続的インテグレーション
    • トランクベースの開発
    • テストの自動化
    • テストデータの管理
    • 情報セキュリティのシフトレフト
    • 継続的デリバリ
  • アーキテクチャ関連のケイパビリティ
    • 疎結合のアーキテクチャ
    • チームへの権限の付与
  • 製品・プロセス関連のケイパビリティ
    • 顧客フィードバック
    • 業務プロセスの可視化
    • 作業の細分化
    • チームによる実験
  • リーン思考に即した管理・監視に関わるケイパビリティ
    • 変更承認プロセス
    • 監視
    • プロアクティブな通知
    • 進行中の作業(WIP: Work in Progress)の制限
    • 作業の可視化
  • 組織文化に関わるケイパビリティ
    • Westrum推奨の創造的な組織文化
    • 学びの支援
    • チーム間の協働
    • 職務満足度
    • 改善を推進するリーダーシップ

*1:xxiiページ。

*2:60ページ。

*3:93ページ。

*4:227ページ。

*5:Tweet中の「ソフトウェア工学!」は、昨日開催された「レガシー感謝の日」という勉強会における福々亭ひろにゃんこ (@warumonogakari)さんの発表にあった研究への言及である。イベントの内容および福々亭ひろにゃんこさんのスライド資料についてはkojirockさんのレポート記事を参照していただきたい。