こまぶろ

技術のこととか仕事のこととか。

Technical leadership and glue work / Being Glue を読んで

Tanya Reilly による「Technical leadership and glue work」という講演(および、その文字起こしによるブログ「Being Glue」)があります。(以下、講演に特に言及する場合を除き、「記事」として言及します)。


www.youtube.com

noidea.dog

Manager ではなく Individual Contributor としてのキャリア

筆者の Tanya Reilly は、元GoogleのStaff Systems Engineerで、現在はSquarespaceでPrincipal Software Engineerを務めています。これらの職名からもわかるように、彼女はマネージャーではなくエンジニアとして昇進を続けながら活躍してきた人です。

エンジニアリングマネージャーについての書籍は、翻訳が出ている『エンジニアのためのマネジメントキャリアパス ―テックリードからCTOまでマネジメントスキル向上ガイド』(原題:The Manager's Path)や『フェイスブック流 最強の上司』(原題:The Making of a Manager)の他にも、『An Elegant Puzzle: Systems of Engineering Management (English Edition)』などの書籍がありますが、IC(Individual Contributor)の上位職のための書籍としては『Staff Engineer: Leadership beyond the management track (English Edition)』があるくらいで、まだ整備されていないという状況があります(これは、ICの上位職の責務が企業により非常に異なっているという事情もあるようです)。

Tanya Reilly は、このICの上位職のための書籍を目下準備中(発売予定は2022年10月。Oreillyのサブスクで Early Release 版の第1章まで読めます)なのですが、冒頭の記事も近接した問題系についてのものです( Tanya Reilly が書籍で挙げているサンプルのキャリアラダーでは、この記事で言及される Senior Engineer の上で Staff Enginner と Manager とに分岐するのですが)。

learning.oreilly.com

(2024/3/5追記、すでに『The Staff Engineer's Path』として発売されています。)

Glue Work とその危険性

この記事の主題である「Glue Work」とは、他のメンバーがブロックされているのを助けたり、設計ドキュメントをレビューしたり、新しいメンバーのオンボーディングをしたりという、一見すると「技術的」ではないと思われるような仕事です。著者によると、これらの仕事は「技術的なリーダーシップ」の一部であり、シニア開発者には求められるものである一方で、シニアになる前にこれらの仕事をしすぎることはキャリアをダメにしてしまう危険性があるとされています。なぜなら、これらの仕事をしすぎると、コーディングなどのより「技術的」な仕事に時間を割くことができず、「シニア」への昇進で求められるような「技術的」スキルを磨く機会を失ってしまうからです。

記事の中では、1人の女性エンジニア(ここでわざわざ「女性」というのには意味があり、記事の後半で女性が男性よりも多くこの種の昇進に結びつかない仕事を頼まれる/する傾向があるという話が紹介されています)のストーリーを用いて説明がなされますが、この話を「自分のことだ!」と思う人は少なくないようです。自分も、割合この種の仕事をしがち(好んでやっているし、自分だけがしているわけでもないので不満はないのですが)なので、読んでいて「あーわかる〜」となる部分が多くありました。

自分は何をすべきで、何をすべきじゃないんだろう

記事の紹介はここまでで、ここからは自分の話なのですが、自分は結構な割合の労働時間を Glue Work に時間を割いている時期が今まで多かったです。コーディングが嫌いなわけではないし、技術に興味がないわけでもないのですが、どちらかというとコーディング以外の形でプロジェクトやチームに貢献するという機会の方を選択してきたように思います。

そうしてきたのは(後ろ向きな理由もなかったわけではないですが)、それが一番自分がその時点で貢献できるからであったり、それが一番面白いと思ったからであったりするのですが、改めて立ち止まってみると、自分のキャリアにとっては好ましくない部分もあったのかなと思いました(よかったと思う部分も多々あります)。たとえば、会社の身の回りのエンジニアに比べて、手が動くまでが遅いというのは、エンジニアとしての自分の大きな欠点だなと思っているところなのですが、 これが改善されてきていないのは自分のこれまでの選択の産物に他ならないと思います。

プログラミング経験ゼロからこの業界に入ってそろそろ5年になりますが、ちょうど自分が業界に入ったあとに「エンジニアリングマネージャー」というトピックが日本でもポピュラーになり、「将来はEMとかそっち方面かなー」とずっと思ってきたので、コーディングなど「技術的」な仕事に多くの時間を割くということをそこまで重んじてこなかったという側面もあります(現場の開発者としての経験はEMにも重要だと考えて、現場に近い仕事を転職の時に選ぶことはしましたが)。

Glue Work についての記事は、自分のキャリアについて特定の方向の示唆を与えるものでもないのですが、改めて自分のキャリアというものを考えてみたときに、どういう仕事を日々選択してやるのかというところも重要になってくるな、というのを改めて思わされました。自分のキャリアの観点とは別に、チームの状況という観点からも、これまでと同じ動き方をしていくことがベストではないのではないかというのが最近思い始めていることなので、改めて自分の働き方、動き方について、チームのメンバーやマネージャー、あるいは社外の人たちと話し合ってみたいなと思いました。

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