ブログを書くようになって15ヶ月が経った。ブログを書き始めたきっかけをくれた師匠ともいうべき存在であるkakakakakkuさんは、三大欲求の一角を「ブログ欲」が突き崩しているとのことだが、僕にとっては今でもブログを書くことは苦痛を伴うものであり続けている。
「書きたい」のに「書けない」という人に
ブログは、書きたいと思っていれば書けるものではない。書きたいと思っていても書けないときはある。自分自身、むしろ書けないときの方が多い。書けない時間が続いているときは、「あぁ、ダメな時期がやってきたなぁ」と思う。
「まぁそんなもんだよね」と諦めてしまうのもいい。ブログを書かなくても開発者は生きていける。しかし、本当に書くべきなのであれば、書かなければならない。「書けない」と嘯いているわけにはいかない。『できる研究者の論文生産術』は、そのような状況に対する処方箋だ。
できる研究者の論文生産術 どうすれば「たくさん」書けるのか (KS科学一般書)
- 作者: ポール.J・シルヴィア,高橋さきの
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2015/04/08
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- この商品を含むブログ (20件) を見る
この書籍は、タイトルにあるように研究者、つまり書くことを仕事としている人に向けたものだ。著者の専門である心理学の知見も用いながら、「書く」ためのアドバイス・知見を紹介してくれる。ブログと研究論文との間の違いはあるが、その知見はブログ執筆にも役立てることができる。
「書けない」は「書いていない」でしかない
『できる研究者の論文生産術』は、「書けない」言い訳を封じていく*1。以下に掲げるものが、議論の対象となる4つの言い訳である。
- 「書く時間がとれない」「まとまった時間さえとれれば、書けるのに」
- 「もう少し分析しないと」「もう少し論文を読まないと」
- 「文章をたくさん書くなら、新しいコンピュータが必要だ」
- 「気分がのってくるのを待っている」「インスピレーションが湧いたときが一番よいものが書ける」
書籍では、これらの書けない言い訳を、一つ一つ論破していく。たとえば、スケジュールを守って書くことを拒む言い訳に対しては、以下のように辛辣に応答する。
「一気書き」派の面々は、執筆生産性の低さに話が及ぶと、自分のダメな性格に言及することが多いようだ。いわく、「自分は、スケジュールを立てたり、守ったりするようながらじゃない」。むろん、こういう議論に意味はない。人間というのは、変化を拒むときには、自分の気質のせいにしたがるものだ(Jellison, 1993)。「スケジュールなんてがらじゃない」と言う人ほど、別の場面ではスケジュールを完璧に守って、常に同じ時間に授業をし、就寝し、好きなテレビ番組を見たりしているものだ。*2
スケジュールを守れないと言っている人がその他の場面ではスケジュールを守っている。こういうことはよくある。当人に言わせれば、好きなことはスケジュール通りできるが、気が進まないものは無理ということだろう。しかし、こう答えることによって「スケジュールを守れない」というのが本当の原因ではないと語っているのである。
執筆時間を設ける
冒頭で、「書けない」時期に言及した。この言い訳に対しても、この書籍は応答する。曰く、「書けない」というのは、「書いていない」ということの言い換えでしかない。
スランプというのは自家撞着のよい例だろう。行動を描写しても、描写された行動の説明にはならない。スランプというのは、書かないという行動以外の何ものでもない。スランプだから書けないというのは、単に、書いていないから書けないと言っているにすぎない。それだけ。スランプという言い訳の治療がもし可能だとすれば、治療としては、書くことしかありえない。*3
対処法として提示されるのは、執筆時間を設けて、その時間に必ず書くようにするということだ。書籍中では、実験において、書くことを強制された群が、気が向いた時に書けばいいとされた群に比して多くの分量を執筆したということを論拠として挙げている。驚くべきなのは、執筆の強制によって単に量が改善しただけでなく、独創的な発想もまたより多く現れたということである。量は質に転化するとよくいうが、通常ひらめきの産物と思われがちな独創もまた量から生まれるというのである。
30分の執筆時間を設けろと言われた時に、「そう言われても書くことがないよ」という反応が当然出る。それに対しては著者は明確な答えを用意している。調査などの書くために必要な作業は、すべてその時間に行えばいいというのだ。
このぼろぼろの言い訳から脱却するのは簡単だ。執筆に必要な作業は、作業の種類を問わず、執筆時間中に行うこと。(中略)書くというのは、文字を入力するだけではない。書くというプロジェクトを遂行するうえで必要な作業は、すべて執筆作業だと考えてよい。*4
30分、一文字も書かなかったとしても、書くための作業をする。これを繰り返していけばよい。書けるようになる根拠は書籍中で示されている。もし仮にそれでも書けなかったとしたら、という疑問も出てくるが、それはそれでも良いのではないかと自分は思う。その30分は無駄には決してならないし、自分を許すことができると思うからだ。「書きたい」「書くべき」と思っているのに何も行動できていないときほど、自分を嫌いになるタイミングはないからだ。
研究者と開発者と執筆
研究者というのは、書くことを本分とする職業だ。大学教員などであれば、教育というのも確かに重要な職責だが、それは大学教員が研究者と教育者の両方を担うからでしかない。研究者は書かなければならない。
これに対して、ソフトウェア開発者はブログを書く必要はない。『できる研究者の論文生産術』で語られるメソッドをそのまま生活に適用しなければ生きていけない職業ではない。しかし、そういった中でブログを書こうとするのであれば、効果的に執筆作業を進められる習慣を身につけることには意味がある。
もし、ブログを書こうと思っているのに、そのために必要な行動が取れていないとすれば、「自分は本当にブログを書こうと思っているのか」を問うべきだろう。
できる研究者の論文生産術 どうすれば「たくさん」書けるのか (KS科学一般書)
- 作者: ポール.J・シルヴィア,高橋さきの
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2015/04/08
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- この商品を含むブログ (20件) を見る
- 作者: スティーヴン・ガイズ,田口未和
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2017/04/27
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- この商品を含むブログ (4件) を見る