こまぶろ

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エンジニアとして本格的に一歩を踏み出した1年間:毎月の読書で2018年を振り返る

この記事は、 write-blog-every-week Advent Calendar 2018 24日目の記事です。

昨日の記事は、KIDANI Akito(@kdnakt)さんでした。

kdnakt.hatenablog.com


2017年4月に新卒・未経験で就職した僕にとって、2018年は、エンジニアとして本格的に一歩を踏み出した年になった。仕事で悩んだり、GitHubに草を生やしたり、ブログを書いたり、今までになく活動的な1年だった。中でも、4月下旬から始めたブログは、

  • きっかけの存在でもあるkakakakakkuさん
  • write-blog-every-week Slackのみなさん

の支えもあって、今週に到るまで毎週1回の更新を保つことができており、生活の一部になりつつある。休日ってブログ書くためにあるんでしたよね。

しかし、今回の記事ではブログを中心に据えることはしない。Advent Calendarの記事ということもあり、ブログを中心に振り返っても良かったのだけど、ブログを書くということについてはこのAdvent Calendarの他のみなさんの記事がすでに十分な知見を提供している。また、今年の1月から4月はブログを書いていなかったので、1年の振り返りとしては相応しくないと思う。

というわけで、今回は2018年の1月からの12ヶ月について、その月に読んだ本の中で印象に残っている本を少しずつ紹介しながら、振り返ってみることにした。いくつかの本については、公開済みの記事を引くに留めていることをご了承願いたい。

各月の書籍リストは下記の通り。

1月 ショーペンハウアー『幸福について』

幸福について―人生論 (新潮文庫)

幸福について―人生論 (新潮文庫)

前年11月から参画したプロジェクトでの仕事にも慣れ、正月休みもあって(職業人としては)弛んでいた時期。「技術書を読まないと」という意識は持ちながらも、勢いに任せて文学作品を読み漁っていた。

ショーペンハウアーのこの書籍は、「それ、本気で言ってます?」という内容も多く、(もとより哲学書は真に受けて生活するようなものではないだろうが)そのまま従えるようなものではない。しかし、端々にギクリとさせられる言葉があり、日常の自分の生活を一歩離れたところから吟味するきっかけを与えてくれる。ショーペンハウアーというと取り付きづらく感じるが、この書籍は下記の文章のように卑近な話題も扱っている。

さて他方において、人間が社交的になるのは、孤独に耐えられず、孤独のなかで自分自身に耐えられないからである。社交を求めるのも、異郷に赴いたり旅に出たりするのも、内面の空虚と倦怠とに駆られるためである。そういう人の精神には、独自な運動をみずから掴むだけの原動力が不足している。だから酒を呑んでその原動力を高めようとする。こうした方法でついには本当の呑んべえになってしまう者が多い。(217ページ)

訳者解説も、短いながら面白い。ピンときた人はぜひ手に取っていただきたい。

幸福は人間の一大迷妄である。蜃気楼である。だがそうは悟れるものでない。この悟れない人間を悟れないままに、幸福の夢を追わせつつ、救済しようというのである。人生はこの意味で、そのまま喜劇である。戯画である。ユーモアである。したがってこれを導く人生論も諷刺的、ユーモア的たらざるをえないではないか。著者の説く一大哲理の背後に、ペロリと出した著者の舌を見のがさないでいただきたい。(「解説」363ページ)

2月 広木大地『エンジニアリング組織論への招待』

こういう書籍があり得るのか、と衝撃を受けた一冊。ある意味では、この本を読んでから今年は始まった。

人文系の大学院を出てエンジニアになった僕は、学生時代の関心事と仕事での関心事が結びつくとは思っていなかった。そんな中で手に取ったこの本には、ソフトウェアの世界の知と、その他の分野の知とが結びつけられるということを教えられた。この本を読んでから、もともと薄っすらと持っていた「組織」*1というものへの関心が、実際の行動(読書や思索)の形を取るようになっていったと思う。

著者の広木さんが、ゆのん(@yunon_phys)さんと一緒にやっているポッドキャスト「EM.FM」も、広木さんの独特のセンスと広範な知識が遺憾無く披露されていて実に面白い。

anchor.fm

このポッドキャストが生まれるきっかけとなった「Engineering Manager Meetup」のOSTの場でホワイトボードを書いていたのが僕だった。「エンジニアリングマネージャーが不人気なのってポッドキャストがないからじゃね」という(確か広木さんの)発言から数日でポッドキャストが始まり、「ゆのんさんの行動力すげえ」と驚嘆したのを覚えている。

3月 市谷聡啓・新井剛『カイゼン・ジャーニー』

間違いなく今年1年を規定した書籍の1つ*2

社会人1年目が終わろうとしており、会社にもすっかり幻滅していた時期に手に取ったこの書籍は、アジャイルというものへの傾倒を決定的にしたとともに、「まず自分が行動する」という今でもしばしば忘れがちになる規範を与えてくれた。

また、著者の市谷さんと新井さんを中心に、この『カイゼン・ジャーニー』という書籍を通じて出会ったたくさんの方々には、彼らの社内外での活動から刺激をもらったり、仕事での悩みを相談させてもらったりと、大変お世話になっている。他の業界にはおそらく少ないであろう、「社外のコミュニティ」というものの素晴らしさを教えてもらった。

エンジニアになって良かったと思っている理由の一つは、コミュニティの存在だ。業務で利用しているOSSのコミュニティはもちろん、日々参加させていただいている勉強会や、ブログを書いたりポッドキャストをやったり同人誌を書いたりという様々なコミュニティが自分の生活を支えている。自分も何がしかの形で貢献していきたいと思う。

4月 Martin Fowler『リファクタリング

新装版 リファクタリング―既存のコードを安全に改善する― (OBJECT TECHNOLOGY SERIES)

新装版 リファクタリング―既存のコードを安全に改善する― (OBJECT TECHNOLOGY SERIES)

ようやく技術書らしい技術書。2017年11月に『テスト駆動開発』を読み、「TDDだ!」となってみたものの、実践する機会がなかなかないまま、コードを書く仕事からも離れつつあった時期に読んで、「プログラミングがしたい!」と思わされた本。

Javaのサンプルコードを添えながら、コードの振る舞いを変えずに構造を改善する手法が数多く紹介している。良いコードがわからなければ、悪いコードを見てもそれがどう悪いかがわからない(Code Smellを嗅ぎとれない)。また、壊さずに改善する手法がわからなければ、悪いコードを見つけても対処できない。この書籍は、以上の2点を実例付きで教えてくれる書籍だ。コードが改善されていく様は一種のエンターテインメントでさえある

なお、最近出た原書の第2版では、サンプルコードはJavaScriptになっている。僕はまだ手に取っていないので、古川陽介さんと増田亨さんが言及していたツイートを紹介しておく。

Refactoring: Improving the Design of Existing Code (2nd Edition) (Addison-Wesley Signature Series (Fowler))

Refactoring: Improving the Design of Existing Code (2nd Edition) (Addison-Wesley Signature Series (Fowler))

5月 アビー・コバート『今日からはじめる情報設計』

今日からはじめる情報設計 -センスメイキングするための7ステップ

5月は新しいプロジェクトに配属された月であり、またブログを本格的に書き始めた月でもあった。プロジェクトで使う技術、ブログのネタにする技術を試すのにプライベートの時間を多く割いていたので、あまり多く本を読んでいなかったなかで、目を通していたのがこの書籍。

新しいことを一気に始めた時期で、仕事でもうまく物事が整理できずに苦しんでいたときに、帯の「混乱よ、さようなら」というフレーズに惹かれて、すがるように手に取った。正直、最初に読んだときは、期待に反してあまりピンとこなかったのだけど、今回改めてパラパラとめくってみると、役に立ちそうなことがたくさん書いてある。今回はその中から、「言語的不安定度を減らす」と題する節を紹介する。

 私たちは、使うべき言葉に対して自信があるときもあれば、自信がないときもあります。
 言語的不安定度(linguistic insecurity)とは、自分の言葉が、自分たちの文脈における標準やスタイルに合っていないのではないか、という一般的に見られる不安です。
 協力して作業を進めるために、それに関わるすべての人が理解できるような言葉を使う必要があるのです。(95ページ)

プロジェクトチーム内で言葉の意味を揃えることの重要性は、様々なところで語られている。そんな中で、この書籍が主張していることが面白いのは、自分の言葉の、自分が属するコンテキストの標準へのミスマッチに対する「不安」に着目している点だ。言語が混乱していると、情報伝達の効率が悪化するだけでなく、人に不安を与えることにもなるというのは、チーム作りをする際にも意識しておきたい。

6月 Mary Lynn Manns・Linda Rising『Fearless Change』

Fearless Change アジャイルに効く アイデアを組織に広めるための48のパターン

Fearless Change アジャイルに効く アイデアを組織に広めるための48のパターン

omoiyari.fmで熱く語られていて手に取った本。3月ごろからすっかり「アジャイルかぶれ」になり、「会社にアジャイルの手法を広めてやるぞ!」と意気込んで読んだ。まとまった文量を割いたパターン・ランゲージの紹介に初めて接したのもこの本だった。

この書籍の内容を十分に活かせているとは言えないが、何度も思い出す一節がある。それは、パターン17「やってみる(Just do it)」の冒頭で紹介されている。「会社を救う方法があるのに上司がやらせてくれない」と訴える人に対する、セス・ゴーディンの言葉だ。孫引きになるが、引用する。

 あなたが捜し求めているものは保険だ。もし計画がうまく行かなかった場合に、周囲の非難からあなたを守ってくれる保険を求めているのだ。あなたは誰かが『新製品プロジェクトを立ち上げてもいいよ』『コスト削減計画を実行してもいいよ』と、背中を押してくれるのを待っているのではないか。そうやって承認してもらうことで、失敗したときのリスクから逃れようとしているのだろう。でもね、ことはそんなに望み通りには運ばないよ。
 やってみなさい。 誰かに承認してもらうのを待つということは、失敗したら尻拭いをしてもらおうと考えているということだ。組織の上層部の人たちは、あなたを信頼し、任せることによって背負うリスクなど十分承知の上だ。もし上司が承認したあなたの計画が失敗に終わったら、苦境に陥るのはあなたではなく、上司なのだ。(163ページ)

なお、パターン・ランゲージというものについてこの書籍が取っている立場については、『組織パターン』のJim Coplienから疑義も提示されているということが、omoiyari.fm #40で語られていた。この点については、もうちょっと勉強したいと思っている。

7月 山田ズーニー『あなたの話はなぜ「通じない」のか』

あなたの話はなぜ「通じない」のか (ちくま文庫)

あなたの話はなぜ「通じない」のか (ちくま文庫)

感情的に、今年一番刺さった本。プロジェクトで思うように周囲と連携できず、アジャイル普及という意味でも壁にぶつかって苦しんでいたときに手に取った。この本については既に長大な記事を書いているのでそちらの参照を乞う。

ky-yk-d.hatenablog.com

8月 プラトンプロタゴラス

プロタゴラス―ソフィストたち (岩波文庫)

プロタゴラス―ソフィストたち (岩波文庫)

仕事については気持ちが少し落ち着き、仕事に直結するものではない書籍を読みたくなっていた時期。Growthfactionの方々の活動に触れて、「価値観」というテーマに対する関心が強まった時期でもあった。

初読は2015年。当時、大学院でのゼミでこれに関する題材を扱っていて、それをきっかけに読んだ。その時に、内容を非常に面白く感じ、改めて読み直したのが今年の8月だった。この本についてはブログで直接テーマにはしていないが、下記の記事の脚注で言及していた。

なぜ、人は「大事だ」と思っていることのための行動をとることができず、別の欲求に負けてしまうのか?このテーマを扱っている書籍として、プラトンの『プロタゴラス』があったと思う。

「充実とは価値観が満たされた状態である」? - こまどブログ

扱っているテーマは「徳は教えられるか」という、一見すると現代の我々にはあまり縁がなさそうなものなのだが、ソクラテスプロタゴラスの対話の展開は実にエキサイティングだし、語られる内容も古びていない。以下で引用する岩波文庫版の訳者解説で言及されている「知る」ということへの態度が、自分の怠惰さへの批判に感じられてならない

「悪いとは知りながら……」という言い方には、「知る」という事について甘えがある。ソクラテスのいわゆるパラドクスは、ほんとうに知っているのなら絶対に行なわないはずではないかと、この甘えをきびしく禁止するのである。(「解説」200ページ)

9月 ジェフリー・フェファー『悪いヤツほど出世する』

悪いヤツほど出世する (日経ビジネス人文庫)

悪いヤツほど出世する (日経ビジネス人文庫)

マネジメントの方面への関心が高まり、気分良く組織論やリーダーシップ系の本を読んでいた中で手に取り、反省させられた本。こちらも過去記事の参照を乞う。

ky-yk-d.hatenablog.com

10月 スティーヴン・ガイズ『小さな習慣』

小さな習慣

小さな習慣

kakakakakkuさんがブログで紹介していて読んだ本。9月末にwrite-blog-every-week Slackに参加して、習慣というものについて改めて考えていた時期。

kakakakakku.hatenablog.com

僕は知らなかったのだけど、amazonで60件のレビューがあり、Google検索でもたくさん書評・感想が見つかる、広く読まれている本のようだ。「小さすぎて失敗すらできない習慣」を身につけることを勧める書籍で、その理由づけを(可愛らしい装丁から受け取るイメージに反して)かなり念入りにしている。もちろん、実践の仕方も説明されているし、巻末では「小さな習慣」を身につけるための助けとなるアプリも紹介されている。

Momentum 習慣トラッキング

Momentum 習慣トラッキング

  • Mathias Maehlum
  • 仕事効率化
  • 無料

僕もこの本を読んでから上記のアプリを入れて少しずつ取り入れている。書籍の中でも強調されているように、「これくらいならやってやってもいいか」と思えるほどの小さな習慣は達成しやすいし、達成することで快感を得ることもできる。また、副産物として、アプリの「〇〇日連続達成です!」という表示によって、思ったよりも早く月日が過ぎていることに気づける@year_progressをフォローするのに似た意味合いがあると思う。

11月 クリストファー・アレグザンダー『時を超えた建設の道』

時を超えた建設の道

時を超えた建設の道

「パターン・ランゲージ」の原典の1つ。

GoFデザインパターン、『Fearless Change』、ドメイン駆動設計のパターン、『組織パターン』など様々なところで接する「パターン・ランゲージ」というものが、建築家クリストファー・アレグザンダーにその由来を等しく求めながらも、それぞれに言っていることが異なっているように感じ、もやもやしていた。

先に読んでいた『パターン、Wiki、XP』で、アレグザンダーの思想がそれ自体として複雑な、深みを持ったものだということを学び、これはどうしても原典に当たらないといけないと感じ、手に取ることにした。そのものずばりの『パタン・ランゲージ』という著書もあるが、そちらは原題を『A Pattern Language』と言って、「パターン・ランゲージ」の一つの具体化という意味合いが強いということだったので、理論編に当たる『時を超えた建設の道』を手に取った。

これはとても面白い本で、付箋をベタベタ貼りながら読んだ。まだ、消化しきれていないのだが、「あの本でのパターン・ランゲージについての見解は、アレグザンダーのこういう側面を取り出したものだな」といった形で、原典との距離で様々な論者のパターン・ランゲージ観を比較できるようになったのはよかった。原典が正しい唯一のものだ、という立場を取るつもりはないが、他の全てがそこから出たところの源流を知ることは意義があることだと思う。

12月 Robert C. Martin『Clean Architecture』

Clean Architecture 達人に学ぶソフトウェアの構造と設計

Clean Architecture 達人に学ぶソフトウェアの構造と設計

プロジェクトで設計に携わることになり、少しでもヒントを得られればと手に取った。また、並行でドメイン駆動設計の勉強をしていて、記事などでこの『Clean Architecture』に言及されていることも多かったので、読んでおかないと、と思った。

序文にある「アーキテクチャのルールはどれも同じである!」というフレーズが表しているように、この本では様々な時代における著者のソフトウェア開発の経験から抽出された原則の数々が語られる。記事や書籍で当たり前のように引用される「依存関係逆転の原則」などの設計の原則について、紙幅を割いて説明している書籍はありがたい。また、この業界に入って間もない身には、今と異なる技術的環境の中で開発がどのように行われていたのかを知ることができるのも面白い*3

ざっと読んでみた限りでは、なんだかずっと同じことを様々なレベルで、違う形で言っている本のように感じる。「結局こういうことだよね」と、ざっくり要約をしてしまいたくなるのだが、これは読み手である僕が差異を的確に捉えられていないだけなのだろうと思う。一回読んだだけでも十分に得られるもののある書籍だが、時間を空けて何度も読み返すに足る書籍でもあると思う。

2019年に向けて

こうして振り返ってみると、充実した1年間だったと改めて思う。色んな学びがあり、出会いがあった。来年の今頃どうなっているかが我ながら楽しみになる。

一方で、やるやる言いながらやらなかったこともたくさんある。技術ブログを毎週書く、振り返りをする、登壇する、などもそうだ。8月の記事に書いたことはほとんど嘘になってしまった。気合入れて宣言したことはだいたいやらないというのが自分の弱点だとよくわかった。

また、今回はすごく本を読んだ体の記事になったが、読みたいと思っていたのに結局読まなかった本もたくさんある。軽い本に逃げてしまった場面も多かった。今年読めなかった本の一部を下に示して来年の自分への宿題としたい。


write-blog-every-week Advent Calendar 2018、明日(最終日!)の担当は、今回の Advent Calendar の発起人・よしたく (@yoshitaku_jp)さんです!

adventar.org

*1:この本を手に取ったのも、タイトルの「組織論」というフレーズに惹かれたからだった。

*2:発売は2月だが、物語調であることを敬遠して3月にようやく手に取った。

*3:付録Aは「アーキテクチャ考古学」である。